2026年10月1日から、飲食店の経営に関わるルールがいくつも同時に変わります。アルバイトの時給、仕入れの消費税、ビールの仕入れ値、従業員を守る体制づくりなど、どれも「知らなかった」では済まない内容です。この記事では、札幌で飲食店を営む個人事業の方・小さな会社の方に向けて、変わる点、お店への影響の目安、やることを順番にまとめました(2026年9月24日時点の情報です)。
1. 北海道の最低賃金が1,131円に(10月1日から)
何が変わる
北海道の最低賃金が、時給1,075円から56円上がって1,131円になります。道内のお店で働くすべての従業員が対象です(パート・アルバイト・学生アルバイトも含みます)。
お店への影響(計算例)
- 時給1,080円のアルバイト5人が、それぞれ月80時間働く場合:51円×80時間×5人=月20,400円(年244,800円)の人件費増
- 深夜(22時~翌5時)は25%以上の割増が必要なので、深夜の時給は1,131円×1.25=1,413.75円以上です(1円未満を切り上げて1,414円以上にしておくと安心です)
- 月給の方も対象です。月給19万円で、月の平均所定労働時間が173時間なら、時給に直すと約1,098円で下回ります。この場合は月195,663円以上が必要です(通勤手当・皆勤手当・家族手当・残業代・賞与は計算に入れません)
やること
- 全員の時給と、月給の方の時給換算を確認する
- 10月1日以降に働いた分から新しい時給で計算する(給与の締め日の途中でも同じ)
- 求人票や求人サイトの時給表示を直す
- メニュー価格と人件費の割合を見直す
設備投資と賃上げをセットで行うと費用の一部が助成される国の「業務改善助成金」は、賃上げより前の申請が必要です。今年度の北海道の申請は9月30日が締め切りです。来年度以降の賃上げで使いたい方は、早めにご相談ください(助成金の申請は、グループのFUJITA社労士事務所が担当します)。
2. インボイス:免税事業者からの仕入れの控除が80%→70%に
何が変わる
インボイス(登録番号のある請求書)を出せない相手からの仕入れは、消費税の一部だけを差し引ける特例があります。その割合が、10月1日以降の仕入れから80%→70%に下がります。70%は2028年9月まで続き、その後50%、30%と下がって、2031年10月からはゼロになります。
お店への影響(計算例)
本則課税(実際に払った消費税を差し引く計算方法)のお店が、インボイスのない個人の農家さんから野菜を税込108,000円(税率8%)で仕入れた場合です。
- 9月まで:消費税相当額8,000円×80%=6,400円を差し引ける
- 10月から:8,000円×70%=5,600円 → 納める消費税が800円増える
簡易課税や2割特例で申告しているお店は、仕入れ先がインボイスを出せるかどうかで税額は変わりません。
やること
- 本則課税のお店は、インボイスのない仕入れ先(個人の農家・漁師、個人の清掃業者など)を一覧にする
- 会計ソフトの控除割合が70%に切り替わるか確認する
- くわしくは【令和8年10月~】インボイス未登録事業者との取引、仕入税額控除が「70%」にもご覧ください
3. 2割特例が終わります。個人事業の方は「3割特例」へ
何が変わる
インボイス登録をきっかけに消費税を納めることになった方が使える「2割特例」(納める消費税を、売上の消費税の2割にできる特例)は、2026年9月30日を含む期間の申告で終わります。
- 個人事業の方:2026年分(1~12月)までは2割特例が使えます。2027年分と2028年分は、新しい「3割特例」(売上の消費税の3割を納める)が使えます。事前の届出はいらず、申告書に書けば使えます。※3割特例は、2年前(2027年分なら2025年)の課税売上高が1,000万円以下の方に限ります
- 法人:3割特例はありません。9月決算の会社は2026年10月1日から始まる期から、12月決算の会社は2027年1月から始まる期から、2割特例が使えなくなります
お店への影響(計算例)
店内飲食の売上が税込880万円(売上の消費税80万円)の個人のお店の場合(概算)
| 計算方法 | 使える時期 | 納税額 |
|---|---|---|
| 2割特例 | 2026年分まで | 16万円 |
| 3割特例 | 2027年分・2028年分 | 24万円 |
| 簡易課税(届出が必要。飲食店は売上の消費税の60%を差し引ける) | 条件を満たせば毎年 | 32万円 |
同じ売上でも、2027年分から納税額が8万円増える計算です。
やること
- 個人の方:2027年分から納税が増える前提で、毎月少しずつ納税資金を取り分けておく
- 法人の方:次の期から「簡易課税」と「本則課税」のどちらが有利か試算する。2割特例を使った期の次の期は、その期の申告期限までに届出を出せば、その期から簡易課税を使える特例があります
- 改装や厨房機器の購入など大きな支出を予定している場合は、本則課税のほうが有利なこともあるので、事前にご相談ください
4. ビール系の酒税が一本化(10月1日から)
何が変わる
ビール・発泡酒・新ジャンル(第3のビール)の酒税が、350mlあたり54.25円にそろいます。
| 種類(350mlあたりの酒税) | 9月まで | 10月から | 差 |
|---|---|---|---|
| ビール | 63.35円 | 54.25円 | 9.10円下がる |
| 発泡酒(麦芽25%未満)・新ジャンル | 46.99円 | 54.25円 | 7.26円上がる |
| 缶チューハイ・炭酸入りの樽詰めサワーなど(発泡性で度数の低いもの) | 28円 | 35円 | 7円上がる |
日本酒・ワインと、通常の度数の焼酎・ウイスキーの税率は変わりません(度数の低い一部の蒸留酒・リキュールの特例税率は、10月に上がります)。お店でウイスキーや焼酎を炭酸で割るハイボール・サワーは、元のお酒の税率のままです。
お店への影響(計算例)
樽生ビールの酒税は1Lあたり26円下がります。20Lの樽を月10本使うお店なら、酒税だけで月5,200円(税抜)下がる計算です。ただし実際の仕入れ値はメーカーや酒販店が決めるので、税の差がそのまま反映されるとは限りません。
やること
- 酒販店から10月からの価格表をもらう
- ビールの売価を据え置くか見直すかを決め、メニューとレジの価格を更新する
- 樽詰めのサワーや発泡酒を扱っている場合は、値上がり分を確認する
5. パート・アルバイトを雇うときの書面に1項目追加(10月1日から)
何が変わる
パートや期間を決めて雇う人を雇い入れるときの「労働条件通知書」に、「正社員との待遇の違いについて、内容や理由の説明を求めることができる」ことを書く必要があります。書かないと10万円以下の過料(行政上の制裁金)の対象です。あわせて、正社員とパートの待遇差の考え方を示す「同一労働同一賃金ガイドライン」に、家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇などの考え方が加わり、賞与の説明も詳しくなりました。
お店への影響
アルバイトの入れ替わりが多い飲食店ほど、古いひな形の使い回しに注意が必要です。
やること
- 労働条件通知書(雇用契約書)のひな形に1行追加する(厚生労働省のモデル様式があります)
- 正社員とアルバイトで手当や休暇に差がある場合は、理由を説明できるか確認する
6. カスタマーハラスメント対策が「義務」に(10月1日から)
何が変わる
お客様などからの、社会の常識を超える言動(暴言、土下座の強要、長時間の居座り、SNSでの中傷など)から従業員を守る対策が、会社の規模を問わず、人を雇うすべての事業主の義務になります。
お店への影響
酔ったお客様への対応がある飲食店には、特に関係の深いテーマです。アルバイトだけのお店も対象です。
やること
- 「カスハラには毅然と対応し、従業員を守る」という方針を決め、従業員に伝える
- 相談先(店長・オーナーなど)を決めて伝える
- 起きたときの対応を決める(一人で対応させない、責任者に代わる、犯罪になりうる場合は警察へ)
- 起きたら事実を確認し、被害にあった従業員への配慮と再発防止を行う
- 相談した人を不利益に扱わないこと、プライバシーを守ることを決めて伝える
同じ日から、採用面接などでの求職者へのセクハラを防ぐ対策も義務になります。
7. 社会保険:「月8.8万円」の要件がなくなります
何が変わる
パートが社会保険(厚生年金・健康保険)に入る条件のうち、「月額8.8万円以上」という賃金の要件が10月になくなります。対象は、従業員(厚生年金の加入者)が51人以上の会社です。
お店への影響
従業員50人以下の会社や、個人事業の飲食店は、今回はすぐの影響はありません。今後の予定は次のとおりです。
| 時期 | パートの社会保険が広がる会社 |
|---|---|
| 2027年10月 | 36人以上の会社 |
| 2029年10月 | 21人以上の会社。個人事業は、この時点より後に開業し常時5人以上を雇うお店も対象に(今あるお店は当分対象外) |
| 2032年10月 | 11人以上の会社 |
| 2035年10月 | 人数の条件なし |
やること
- 厚生年金の加入者数を数えて、いつ対象になるかを確認する
- 対象になる時期が近い場合は、シフトと人件費を早めに試算する
雇用契約書・カスハラ対策・社会保険などの労務のご相談は、グループのFUJITA社労士事務所がお受けします。
今後の動き:食料品の消費税1%案(まだ法律は成立していません)
政府は2026年9月15日、2027年4月1日から2年間、今8%の飲食料品の消費税を1%にする大綱(法案の元になる方針)を閣議決定しました。法律はまだ成立しておらず、これから国会で審議されます。今の案では、次のようになります。
- 店内飲食(外食)とお酒は10%のまま
- テイクアウト・出前は1%
- 食材の仕入れも1%
店内飲食が中心で本則課税のお店は、食材の仕入れの消費税が減るぶん、納める消費税は増えます(そのぶん仕入れの支払いは減ります)。テイクアウトの売上が多いお店や、簡易課税・2割/3割特例のお店は計算が変わるので、個別にご相談ください。レジの設定変更も必要です。法律が決まりしだい、このブログでお知らせします。
まとめ:10月のチェックリスト
- □ 全員の時給・月給の時給換算が1,131円以上か(深夜は1,414円以上)
- □ 10月1日以降の勤務分から新しい時給で給与計算する
- □ 本則課税の方:インボイスのない仕入れ先の一覧と、会計ソフトの70%設定
- □ 法人の方:次の期の消費税の計算方法(簡易課税か本則課税か)を試算
- □ 個人の方:2027年分からの消費税の納税資金を取り分け始める
- □ 酒販店の10月からの価格表を確認し、メニューとレジを更新
- □ 労働条件通知書のひな形に1行追加
- □ カスハラ対策の方針・相談先・対応手順を決めて従業員に伝える
- □ 厚生年金の加入者数を数え、社会保険の対象になる時期を確認
監修:FUJITA税理士法人 代表税理士 藤田 賢
最終更新日:2026年9月30日
※2026年9月24日時点で公表されている情報をもとにしています。実際の判断は、お店の状況によって変わります。